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そしてゆっくりテーブルに置いて、改めて大樹に向き直った。 「なんで私がそんなことしなきゃいけないんですか?」 剣呑とした響きが混じっている。 「だって、オレになんか言いたいことあるか、それとも浅葱になんか言い含められたか、そう思うでしょ」 口火を切ってしまった言葉は、大樹の胸にくすぶっていたどろどろした感情にのって、和歌との空気を一気に不穏なものにした。 「それ本気で言ってます? 浅葱のことを知っていても、それ抜きに私には先輩は先輩。なんでそんなふうに言われなきゃならないんですか?」 学生の時と変わらない敬語ではあるものの、そこにはその時にはあまりなかったきつい棘があった。 「いやさ、そうじゃない? 和歌っちは浅葱と同じ職場だったし、……アレのことも知っているじゃないか」 冗談にしてしまおうと思った理性とは裏腹に、感情がこぼれた。 名前を口にすることの嫌悪も……自分が彼女とアレとをはからずも近づけるきっかけを作っていたことへの激しい後悔も、一挙に押し寄せた。 「和歌っちは、オレと浅葱のことを知っていたのに、なんで、浅葱を止めてくれなかった? いや、なんで、オレに言ってくれなかった?」     
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