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「楽しい場に水を差すようで申し訳ないが、和歌っち、オレは、今でも納得できないんだ。だって浅葱は、辛いばかりじゃないか。アイツを選んだ結果、こっちにいられなくなって、ご両親だってどれだけ参っているか。向こうでだって肩身が狭いだろう。分かってたら、オレがなんとかしてやったのに。オレなら辛い思いなんてさせないのに」
大樹はテーブルに肘をついて、額を支えた。
和歌は俯きながら黙っていた口を開いた。
「止めて、どうにかできるなら、全力で阻止しました」
「そんなの! 止めてみなきゃ分からないじゃないか!」
大樹が激しくテーブルに拳を打ち付け、テーブル全体が一瞬静まった。
「生田先輩、飲み過ぎです」
和歌は静かにそう言って立ち上がろうとした。
「しょせん、君は浅葱を見捨てたんだ」
テーブルに伏せそうなほどに俯いた大樹の低い声に、和歌が表情を変えた。
「……先輩は、何も分かってない」
同じ低い言葉に大樹がカッとして顔をあげた時には、和歌は一瞬の怒りをすべてポーカーフェイスに隠してすでにバッグとジャケットを手にしてテーブルから離れていた。
何も、分かっていない。
それは自分のことか。
分かっていなかったのは誰か。
幹事に声をかけて店を出ていったその背中に、やり場のない怒りをぶつけることも叶わず、大樹は目の前のジョッキを乱暴に引っ掴んで呷った。
誰かの「いい加減飲みすぎ」と気遣う声が聞こえたものの、無視して店員にお代わりを頼んだ。
自分が飲める限度の量などとうに越えていた。
それでも、やりきれなかった。
何が悪かったのか。
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