66人が本棚に入れています
本棚に追加
泥のように粘りつく眠りを妨げる声がした。
その声は何度も沈む大樹の意識を、泥の中から引きずりあげるように涼やかだ。
しかも気遣う気配に満ちていて、大樹はふと親しみを覚えた。
親しみというよりは、戻らない懐かしさに近い。
「あさぎ」
口にしたら、少し意識が明白になる。
相手が少し息を飲む気配がした。
帰ってきたのか。
そう思うと、指先にまで血液が巡るように力が少し出てきた。
軽く揺すられ、大樹は軽く呻いた。
肩あたりに誰かが触れているのがわかる。
そのぬくもりとともに聞こえる優しい声に、大樹は、ハッと眠りの底へ引きずられかけた意識をつかんだ。
「浅葱!?」
声を上げるのと、誰かの小さな悲鳴と、そして激しい頭痛が大樹を一挙に襲った。
その瞬間、すぐそばで鐘をつかれているような痛みに反射的に身が縮んだ。
薄暗い視界を地面に立つくたびれたスニーカーが掠めた。
やけにそのスニーカーと自分の距離が、いや自分が地面に近い。
ようやく地面に座り込んでいると自覚する。
少し動かすだけで、ひどく頭が重く痛い。
なんとか痛みを抑え込んで、スニーカーの持ち主に焦点を合わせた。
最初のコメントを投稿しよう!