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おぼろな街灯の明かりの下で、驚きとわずかな怯えを見せる若い女性が大樹を見下ろしていた。
「え、あ、どちらさん……ですか?」
間抜けな声だと自覚しながら、大樹は目の前のジーパンにスニーカースタイルの相手に問いかけた。
「あ、あの、あの、」
少し困っているような顔で、大樹よりは年下と分かる女性は大樹の顔と自分の体の方との間に視線を往復させた。
訝しげに大樹は女性の視線を追って。
しっかり自分が女性の手首を掴んでいることに気づいて、慌てて手を離した。
「す、すみません」
少しホッとしたように、女性はメガネを指でかけ直して言った。
「あの、ここで眠ってしまうと危ないです。人目があまりないので」
言われてあたりを見回す。
大通りの喧騒を一歩入った住宅街の路地。
あと数メートルで、自分が住むマンションのエントランスがぼんやりした光を放っているのが見えた。
その数メートルを残して、どうやら道端に酔い潰れて眠ってしまったらしい。
情けなさがこみ上げて、慌てて立ち上がろうとして足元がふらついた。
サークルの同窓飲みが終わって誘われた二次会を断り、大樹は1人で自宅最寄近くの居酒屋に入った。
そこでしばらく焼酎を飲んでいたはずだ。
会計をした記憶は、おぼろげにある。
「あの、大丈夫ですか?」
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