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大樹は奥歯を噛みしめるようにして目をそらした。
やはり今日も、まっすぐ家に帰れそうもないなとため息を漏らした時、スマホが震える音がした。
メッセージが入っている。
タバコを灰皿に押し付けて火を消し、スマホをタップした。
会社の同僚である筒井からだった。
「今週金曜日、合コン、18時集合」
またか、という言葉を飲み込んで、指を滑らせる。
「今回は遠慮しとく。オレ以外をあたってくれ」
「お前に拒否権はない。絶対参加でよろしく」
「そういう気分じゃない」
返した言葉に既読はつかず、大樹はため息をついてスマホをテーブルに放り出した。
結婚式の招待状まで出してからの破局に、会社の人間は誰もが同情の目を向ける。
いや、同情の目だけではない。
なかにはいい気味だと腹の底で思っている人間もいるだろう。
それは、独身を謳歌する同僚の筒井なども実はそうかもしれない。
ここぞとばかりに大樹を合コンに引きずり回し、憂さをはらせてくれようとするその裏では、そういう大樹を笑っているかもしれない。
そこまで思って、大樹は頭を振って、冷めきったコーヒーを飲み干した。
誰かの真意を勘ぐるなど浅ましい。
変な同情よりもおおっぴらに遊びに誘ってくれるだけ、単純だ。
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