苦い記憶は珈琲の香りにたくして。

１

場を盛り上げるための軽い冗談だとしても、気が乗らないまま参加した大樹には、それがまるで大樹を名指しで不甲斐ない男だと糾弾しているように聞こえた。

思わずカッとなった。
それからは荒れた。
あっという間に合コンという華やかな場は険悪になり、酒の上だとしても筒井と派手に口喧嘩した。
周りが必死で止めに入ったけれど、下手をすれば、手も出ていた。

「いつまでもうじうじしてんじゃねえよ！　いい加減、前見ろっつってんだろ！　営業課期待のホープが聞いて呆れるわ！」

吐き捨てられた言葉とともに去った筒井の背中さえも、共に合コンに参加していた別部署の同期の憐れむような顔さえも、大樹には遠いできごとのように思われた。
すべて、夢だったと。

営業という職業柄お酒を飲むことが多いせいで、二日酔いも多い大樹を心配して、今にも、彼女がスーパーの袋を手にマンションのドアを開けて入ってくるのだ。
大丈夫？　という言葉を顔に素直に書いて、入ってきて、それからベッドのそばに膝をついて、大樹の顔をのぞきこむのだ。
それから、いそいそと立ち上がって、キッチンに向かって、それからほどなく味噌汁の香りが漂ってくるのだ。

それが、日常になるはずだった。

大樹は唇を噛み締めた。
女々しい。未練ばかりだ。