爪紅差して翳した其の掌(て)

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「ちょっと!あたしは祭里を一目見た時からずっと狙っていたんだよ!なんで通してくれないんだい!」 夜になって改めて櫻木を訪れると、玄関口で一人の女性と遣手が揉めていた。既に俺の顔を覚えている禿が俺にこくりとお辞儀をすると、案内の為に俺の手を取った。それを見た女性が、俺の事を指差しながら今にも泣きそうな顔をして叫んだ。 「そこのあんた!指物屋の時雨じゃないかい!やっぱりあんたなんだね!男のくせに、あんたが祭里をあたしから奪ったんだ!」 「おやめなさい、見苦しい」 男のくせに、か… ここは遊郭だ。好めば誰だって相手になれる。別に祭里は女だけのモノじゃない。そう…金さえあれば男女を含めた全員が祭里を自分のモノに出来る。 だから今夜の祭里は俺のものだ。 俺は踵を返して禿の後について行った。
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