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「会社の飲み会で上司と一緒の3次会はないよねー
数ある危機をかいくぐって、抜けられてよかったわあ」
行きつけの小ぢんまりしたショットバーで
カウンターでマスターに『酸っぱいの作って下さい』と頼んだ同期の酒豪、長野萌(ナガノモエ)を横目に見ながら
月島冴子(ツキシマサエコ)は目をトロンとさせ、甘めのカクテルに酔っぱらっていた。
「そー・・・だね・・・」
ーーまただ。いつもここから始まる・・・
その時ーーーーあ。・・・いた
目が合った。
あの少年が、サエコを見ながら微笑み、近づいてくる。
少年が隣席に座る。
「・・サエコは、まだまだみたいだね」
「?」
ーーまだ・・?何が・・・?
少年はふわっと笑うと
「そんな微妙な顔して・・・『好き』がわからないくせに・・
もう少し、サエコには経験が必要だね」
少年はサエコの左手を取って、小指の指輪を触った。
「これ、君が?」
「そう・・僕はレイ、だよ」
「レイ・・・」
ーーそう、『レイ』って言ってた・・・。
ホントに、この子はお花が咲くみたいにきれいに笑うんだな・・サエコは可愛いと思った
レイが微笑んで顔を寄せる。
「・・・『好き』な人も、『運命』の人も、やっぱりまだ見つからない?」
「・・・わからないの・・・」
ーートモキとはまあ平凡で平和で。たぶんあの状態は、女として一般的には誰が見ても『幸せ』だったように思う・・・
ーー常務のリクトは、束縛は強いしまあまあの変態で。エッチはものすごく気持ちよくてーー
正直仕事面と生活面では不自由で嫌だったこともあった。けど、最後の日の・・・あのリクトの姿・・・
そばにいて彼の闇を支えてあげられたらなっていう気持ちも、正直少し、あった・・・私でなくても、誰かが・・・。
これは、同情・・?
幸せって・・好きって・・・私にはまだまだわからない・・・
カラダは簡単に繋げられる。なのに・・・心ってわからない。
たった1人に永遠の愛を、誓えるのか。そもそも永遠なんて、あるのか・・・
「サエコは迷子か・・いい傾向だ」
レイはニコッと笑った。
「迷子・・・」
ーー確かに・・・
あ!そうだ
確か、ここでモエが・・私を叩く!
サエコはカラダをよじらせてモエの攻撃をひょいっと避けた。
「おわ!」
肩透かしを食らったモエがバランスを崩した。
「えへへ」
サエコは小さく笑う。
「うわー珍しくサエコが俊敏だ~!」
「ふふ」
「ほら、グラスがカラじゃん!サエコ、飲みな飲みな~!」
「ああー、うん、飲むよ~」
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