清潔の部屋

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清潔の部屋

 姉の指が僕の胸をそっと突いたときから、黒い染みが見えるようになってしまった。  姉にその気があったのか、確かなことは言えない。ただ、姉が「ねぇ、」と人差し指で触れた時、その時の目が、ゆらりと僕を捕らえて離さなかった。口にしない代わりに、粘っこい視線が、ねだるような指先が、制服からじわり差し出された太ももが、僕の何かを欲していた。  爪の先に生えた毒針が脈打つ血管に伸びて、脳から脊髄から身体の隅々まで侵されてしまう。生々しく鮮烈に想像されて、姉の両肩を押して振り払った。  その日の夕食は外で、「こんなに美味しいイカスミははじめて」と上機嫌な姉に対して、激流が血管を流れ続ける頭が痛くて僕のドリアはいつまでも減らないままだった。  母が心配する横で、素知らぬ振りの姉。黒く汚れた唇に目が留まる。目を離せないでいると、口の端からガーゼに血が滲むようにして黒い染みが広がっていく。見たくないのに目は釘付けにされてしまっている。染みは上へ上へと伸びる。姉の鼻を覆い、頬を染め上げながら涙袋へと迫る。染みの境界線を追っていたから、そこで姉と目が合ってしまった。  一回やってダメだったからって、逃がすと思う?  すぐに目線は逸れた。
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