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今日は、清香にダブルデートをドタキャンされるという最悪の事態が起きた。そして残された男同士で夏祭りに行くという、自分では選ぶことのないルートを、翼に無理やり選ばされた。最初は、初対面の翼に振り回されていたが、いつしかそのペースに巻き込まれ、自分でも普段ではしない行動を起こしている。そして結果、特に嫌悪感を抱いてはいない。むしろ、予想できないことを楽しんでいる。
翼が楽しそうに笑っている姿を見ていると自分が考えていたこと、懸念していたことが小さいことのように思えた。初対面で会話が続かなかったらどうしようだとか、沈黙の時間がどんどん過ぎていってお互いがきまずくなるくらいなら、最初から別行動の方がいいのではないか、と考えていた自分の予想の、遥か斜め上か、それ以上の発想で翼は返してくる。コミュニケーション能力というのだろうか、物怖じしない性格というのか、とにかく翼は考えて行動していない。先のことを考えない。ある意味、いつも最悪の事態を考えてそれを避けようと行動する自分とは、真逆の考え方なのだと思う。
「次は、君の食べたいものを食べよう。あ、でも、もう満腹……」
そう言いかけた誠司は、目の前の翼の様子がおかしいことを気づいた。自分たちはじゃがバターを食べるために道の脇に避けていたが、急に真顔になった翼が誠司の視界を遮るように近づいてきたのだ。
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