箱の中のAIロボット

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「昔はな、少数マイノリティが生き辛い世の中だったらしい。だが今は逆かもな。精子も卵子も冷凍保存が出来る。自身の身体に精巣卵巣がなくとも、冷凍保存の種子を体外受精させることが当たり前になったからな。遺伝子操作も容認された時代の現在だもんな。異性愛者を増やせとは言わないし、同性愛者を減らせとも言わない。この二つの衝撃、あるいは衝突によって生まれた俺たちの時代の技術に文句をつけるつもりもない。別にって感じだ。だがなあ、こう、さ。命って何だろうな。生きるって何だろうな。愛って何だろうな。俺さ、時折、ひいじいさんひいばあさんの生きていた時代に行きたいって思っちまうのよ。どんな形の愛でも、必死に愛を叫んでいた時代を見てみたい。子孫繁栄が遺伝子にプログラミングされているという通説が覆る時代も近いかもな」  生まれてから今までの現実、当たり前の日常に、自ら疑問を投げ掛ける。まるでエイジ様が一人、時代を逆行していく様に思える。 「あいつを、スバルを見ていたらなあ。あーあ。眠いから寝るわ。夕飯は自分で作って食ったからいらん」 「はい。ごゆっくりお休み下さい」  ヒラヒラと手を振るエイジ様は、本当に何を考えておられるのか理解出来ず、私は困ってしまった。  出来上がったスバル様のお粥と、ナツキ様の和食定食を持ち、スロープで駆け上がると、部屋の中から笑い声が聞こえていた。 「失礼します。夕食をお持ちしました。夕食後には、ネブライザーでの吸入をよろしくお願いいたします。輸液は外しますね」  先程まで、スバル様は笑っておられたのに、私が来た途端、黙られてしまった。バイタルに異常なし、精神状態も異常なし。 「ありがとう、グレイ。あ、後でちょっといいかな?」 「はい。ナツキ様のご都合のよろしい時間に」  私はスバル様の自室を出ると、玄関から、アオイ様の声が聞こえた。スロープを下りると、アオイ様が夕食をねだられた。 「アオイ様、夕食の前に足を」 「足?」 「今朝の蹴り上げで痛めておられないか、確認を」     
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