箱の中のAIロボット

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 気管支拡張剤のベネトリン吸入液と体液とほぼ等張の塩化ナトリウム水溶液、つまり食塩水である生理食塩水をネブライザーで吸入してもらう。そして、初期輸液として、生理食塩水を様子を見ながら輸液する。  死ぬ、とはどういうことだろうか。 「スバル様、ナツキ様が悲しみます」  スバル様は、実兄の名前に渋々頷いた。  やるべきことをやる。それが私の役割なのだから。 「スバル様。どうか安静に」  スバル様はいつの間にか寝息をたてて眠っておられた。  スバル様の自室を後にし、ナツキ様の電子端末に連絡を入れると、短い返事が来た。 「すぐ帰られるとのこと、ですか。学業はどうなさるのでしょう。アルバイトはどうなさるのでしょう」  スロープを下りながら、私は、知識のバックデータを参照し続けた。  人間のからだは、ホメオスタシス、つまり恒常性である。水分と電解質のバランスを保たねば、生きていけない生物だ。成人の体重は六十パーセント程度の、小児の体重では七十から八十パーセント程度の水分がその割合を占めている。 「グレイ。いつもありがとう。助かるよ」 「ナツキ様。これが私の仕事ですので」  ナツキ様は、スバル様に付き添うため、高等学校を早退された。そのまま、スバル様の自室で、スバル様に寄り添っておられた。  部屋を後にし、台所に行くと、エイジ様が会議から戻られていた。     
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