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私の大泣きの声で目覚めた彼は驚きつつも私を優しく抱きしめてくれた。
「どうした?」
「ミ、ミノ……ミノルが~~~」
「俺がどうした」
「………え」
「だから、俺がどうしたって?」
「……え? え……ミノ、ル?」
「実だけど。というか知らなかったのか?」
「……」
「昔過ぎて忘れていたとしても病院で名前、知る機会はあったんじゃないのか?」
「……」
そういえばそうだ。どうして今の今まで彼の下の名前を気にしなかったのだろう。
病院で再会した時、カルテに書かれた彼の名前の認識は霧に包まれてたようにぼんやりしていた。
(もしかしてそれってミノルの仕業?)
何故そんなことをしたのか解らなかったけれど、この流れで思い出した記憶があった。
それは15年前、初めて彼と喋ったきっかけの記憶。
『あんた、名前、初実っていうのか?』
『え?』
『それ。ノートに名前、書いてある』
『あ……はい。そうですけどそれが何か』
『俺の名前と一緒』
『え?』
『中村実。同じ漢字だ』
『……あぁ、漢字が一緒ですか。びっくりした。はつみって名前なのかと思いました』
『男なのにそんな名前じゃねぇよ』
『名前に男とか女とかって関係ないと思います』
『ないのか?』
『ないです』
(あぁ……そうだった)
彼の名前は実だった。
私は無意識に彼の名前をあの子につけていた。
(そんなことまで忘れていたなんて……)
とても大切な事を忘れるほど私はショックだったのだろうか。
彼に捨てられたと思い込んでしまったことが。
──それとも
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