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お互いの想いを伝え合い、素直な気持ちのまま彼に身を任せた。
求め、求められたから彼に全てを捧げた。
それについての後悔は全くなかった。
だけどその直後、彼は私の前からパッタリと姿を消した。
学校もいつの間にか退学になっていた。
それっきりだった。
初めて恋して初めて体を重ねた彼。
私にとっては生涯忘れることのない彼。
どんなに月日を重ねても彼の存在が私の中から消えることはなかった──。
「……」
(なんでこんな夢を見たのだろう)
朝、目を覚ました私をミノルはジッと見ていた。
そのミノルに何故か違和感を覚えた。
(……?)
なんとなくミノルが変だ。
(なんだか……透けて来ていない?)
そうは思いつつも気のせいかもしれないと、さして気に留めなかった。
そしてまた激務の日々が始まる。
忙しいのは嫌いじゃない。何も考えなくてもいいからだ。ただひたすら仕事に没頭して日々を費やして行くだけ。
私にはミノルだけいればよかった。
「先生、次の患者さんお呼びしてよろしいですか?」
「はい、お願いします」
冬場の内科は目が回るほど忙しい。自分自身の健康管理もちゃんと管理しなくては、などと考えていた矢先、呼ばれた患者が目の前に座った。
「──お願いします」
患者は同い歳くらいの男性だった。
「小川さん、ですね」
「……はい」
病歴、来院した理由などが書かれた問診票を見ながら話し掛けた。
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