Return Child

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「今日はどうされました?」 「……」 小川という名の患者が私の顔をジッと見たまま微動だにしない。 「小川さん、どうされました?」 「……はっちゃん?」 「!」 一瞬息が止まるかと思った。 『はっちゃん』 私をそう呼ぶのは私の左肩に座り込んでいるミノルと──あの時の彼だけだったから。 なんと小川という患者はあの時の彼、中村くんだった。 実に15年ぶりの再会だった。 再会した日から数日後、会う約束をしていた私たちは食事をしつつ15年分の話をした。 彼が突然私の前から姿を消したのは、彼の父親の暴力から逃げるために母親と共に姿を消したためだったとか、家庭環境が劣悪な自分から連絡を取るのは憚られると私を諦めたことや、その後、母親が再婚し苗字が変わったこと、仕事をしながら夜学に通い今は小さな設計事務所を構えているなど、知らなかった話を語ってくれた。 彼の話を訊きながらまるで15歳の時の自分に戻っている感覚になった。 そうして改めて思い知った。 (あぁ……やっぱり私、彼のことが……好き) あの時から気持ちは変わることがなく、呆れるほどに彼のことを愛おしく思っている自分に気が付いたのだ。 それは彼も同じだったようで、私たちは15年分の空白を埋めるかのようにお互いを求め合った。 彼との再会を果たし、再び結ばれた朝、浅い眠りから覚めそこでようやく気がついた。 (……ミノル?) いつも横から口を出していたミノルの姿が消えていたのだ。
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