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「ミノル?」
隣で寝ている彼を起こさないように小さな声で呼びかけてみる。
すると目の前に淡い光を纏ったミノルが姿を現した。
「ミノル、どうしたの?」
『はっちゃん、お別れだよ』
「え?」
『やっとはっちゃんが幸せになれる』
「どういうこと?」
『はっちゃんとボクが幸せになれる時がやっと来たんだ』
「?」
『ボクはね、はっちゃんと其処で寝ている人からじゃないと生まれて来れないんだ』
「──え」
『最初は失敗しちゃったけど……今度こそ』
「……ミ、ノル?」
『あのね、色々準備しないといけないんだって』
「準備? 何の?」
『ほんのちょっとのお別れだよ。すぐにまた会えるから』
「お別れって……ねぇ、何を言っているのかちゃんと──」
『今度こそ……今度こそボクを……その手で……』
「ミノ──」
『じゃあまたね、お母さん』
「!!」
(狡い!)
最後に……最後に『お母さん』だなんて呼んで。
(狡いよ、ミノル!)
溢れる涙でもうミノルの姿が見えない。
涙でぼやけていく光の眩しさしか感じられない。
あまりにも眩しくて、もう目を開けていられる状態じゃなかった。
ミノルは私を恨んでなどいなかった。
私が彼と再び出会えるまで、そのために他の男性から私を守っていてくれたのだ。
(こんな……こんな最後になって気づかされるなんて!)
涙が止まらない。
やがて光は感じられなくなり、ようやく瞼をあげた私の前からミノルは消えていた。
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