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彼は微笑み、ため息を吐いた。
「……ありがとう」
ロールケーキの乗った皿が差し出される。
「紅茶は淹れ直すから、ちょっと待ってて」
茶葉が開くのを待つ間、彼は天井の月を仰いで、私を見なかった。
口元が綻んでいる。達成感とも、諦めとも取れる笑みだった。
丸いケーキを切り崩す。
「私、満たされて、余裕ぶっているのは嫌いなんです」
「ああ、三日月に変えようか?」
紅茶を注ぐ手が、はたと止まった。
真実が知りたいわけじゃない。彼が誰の役を演じても、望みを叶えてくれればそれでいい。
でも与えられる分が多いのは嫌だ。愛し合う夢を見るなら、互いに与えるものも等価でなければ。
「斬られた首にも少しの間、意識があるらしいですね」
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