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記憶の中の雨音が大きくなるにつれて、現実が戻ってきた。
後ろから来た車が、横を通り過ぎる。……帰らないと。ここにいては、邪魔になる。
再び車を走らせると、跳ねる雨粒や水溜りの光が揺らいだ。さっき見た、刀の刃文を再現するように。
あれは……前世の記憶、だ。信じ難いけれど、夢とは違う「思い出した」という感覚――栓の抜けた感覚が、確かに自分の記憶だと思わせる。
人の魂は使い回されているらしい。事象は遠く思い出になっても、あの時の感情が変わらず、今もこの胸にある。寂しくて、虚しい。
家に帰るや、刀探しをせずにはいられなかった。あれだけ美しい刀、今やきっと国宝か重要文化財だ。そう踏んだのに、ネット上の集合知は一向に、目当ての姿を見せてくれない。
やがて朝日が昇り、仕方なく諦めた。休日に、図書館へ行こう。博物館や美術館も回らないと。
血は争えない、と嫌な言葉が浮かぶ。
両親は西洋美術の愛好家で、私が成人した頃から海外旅行三昧だ。二人とも、仕事の場所に縛られない投資家なので、年に数回帰国しては、またすぐ出て行く。私は誘われない。家の壁を彩る複製画に、碌な感想を述べないから。
複製。そうか。とりあえず模造刀でも、似たものを作ってもらえば。もし一生、あの刀の名前すら分からなくても――そもそも、現存していなかったとしても。
せめてもの気休めを得た時、すでに起床時間が一時間後に迫っていた。
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