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幻の町
昼間から酔っぱらいで賑わう酒場に、一人の旅人が入ってきた。
「水をくれ」
疲れ切った様子の旅人は、カウンターの向こうにいる主人にそう言った。
「ほらよ」
「ありがたい」
ごくごくと出された水を飲み干し、それから旅人は客達の方に振り向いた。
「幻の町と呼ばれる所を探しているんだ。何か知らないか」
旅人が大声で言うと、賑わっていた酒場は一瞬で静まり返った。
誰も答えなかった。
旅人を見る客達の目は、どこか冷淡ですらあった。
「謝礼はいくらでも出すぞ。誰か情報を持ってないか」
「誰も知らんさ」
コップにもう一度水を注ぎながら、酒場の主人はため息とともにそう言った。
「あんた、担がれたんだろ」
「そんな事あってたまるか!! 俺は幻の町に人生をかけているんだ。バカげたことを言わないでくれ!!」
男は主人を怒鳴りつけ、厚かましい事に水はきっちりと飲み干し、慌ただしく出て行った。
誰も彼に声をかけようとはしなかった。
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