幻の町

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 常連客が旅人と入れ替わる様に入ってきた。  その客は、店の様子を見るなり笑って言った。 「幻の客が出たか。どんな奴だった?」 「今回は若い男だったよ」 「何だつまらん。たまには可愛い娘っ子が来ても良さそうなもんだがな」  この店にゃ色気が足りん、と言いながら煙草を加えて火をつける。 「ちょっとアタシじゃ不満だっての?」  その言葉に、店のウェイトレスが気色ばんだ。 「お前さんの尻はもう見飽きてんだよ」 「その割には毎回触って来るじゃないの」 「他に触るもんが無いんだから仕方ねぇだろ」  店の中にドッと大きな笑い声が起こる。 「自分の尻でも触ってな、このスケベ野郎!!」  ピシャン、と一際大きな音が店に響き渡り、店の中は元の活気を取り戻した。  その笑い声を聞きながら、主人は思う。  店に来る幻の客が皆口を揃えて言う幻の町。  そんな場所があるなら行ってみたいものだ、と。  
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