一話 米と共に落ちぬ

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一話 米と共に落ちぬ

「お米をもらいにいってきます」  瑞穂は母親にそう言って家を出た。長く病に伏せる母は、布団の中でもぞりと動いて了解を伝える。  数えで十二になったばかりの少女の胸と腹の間に、どうしようもない酸っぱさがこみ上げたが、手を強く握って誤魔化す。もう一度いってきます、と大声をあげて、扉の無い出口から家を出た。  蛍灯の蔦が巻き付いた柱の間をくぐり、広々とした街路へ出る。空を見上げると、黒々した岩肌のしわの中で、星虫たちの光が弱々しく輝いている。時刻は六つ半といった所であろうか。星虫たちがわき出して本格的に発光を始めるには、まだ少し時間がある。 「もう少し早く出た方がよかったかな?でも早く行けばいいってものでもないよね!うん。海によってこ。四つに神使様がくるから、小半時はいれるかな」  思ったことをよく口に出す娘であった。独りでも話さねば、言葉を忘れてしまいそうであったからかもしれない。     
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