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3話 剣(つるぎ)
家に辿り着いた時には、瑞穂は息も絶え絶えであった。頭の上に紐でまとめていた髪がほつれている。経験したことの無い加速は心臓に悪いし、単純に息が吸い難い。
瑞穂の家は、いや、仕切りと言い換えてもいいだろう。いわゆる竪穴住居であった。壁は端材を寄せ集めたもので、温めた空気を外に逃がさない役目以外は出来そうにない。
「ここか?」
男は息切れ一つもしていない。抱えていた瑞穂と米袋を下ろすと、家の中にずかずかと入りこんだ。
囲いの余った空間でしかない部屋には、水瓶などの容器が並び、隙間を縫うように敷かれたござ、その上の布団に母がくるまっている。
「病か」
一瞥して瑞穂に問う。
「は、はい。あの、これからどうする、おつもりでしょうか」
瑞穂がおずおず切り出す。流されるまま連れてこられたが、この状況は歓迎できるものではない。この大男がなにをやらかしたのかは知る所ではないが、何者か、恐らくはお上、高天原におわす神々に追われているのではないか。
もちろんそんな大ごとに巻き込まれてはたまらない。多少かけっこの得意な少女など瞬きの間に死んでしまう。まして病気で動けない母に至っては。
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