3話 剣(つるぎ)

2/3
前へ
/12ページ
次へ
 そういった不安を、大男は感じ取ったようだった。ぶっきらぼうなのは変わらないが、どことなく気遣うような視線。 「案ずるな。すぐに発つ。用事が終わればな」  男は扉代わりのむしろをくぐり、一跨ぎで母親の寝床の前に立った。 「女。この近くに社はあるか」  母親は何事かと身を起こして、自身を覆う影が真横の巨体からくることに気づく。しばらく呆気にとられるが、傷んだ身を振るってどうにか正座する。 「畏くも高天原に座しますお方が、このようなあばら家にお越し下さるとは、勿体ないことでございます」 「社を探しに来た。知っているか」  母は瞳孔を斜め上にさ迷わせて、やがて瑞穂へ目をくれた。 「瑞穂や、そこの水瓶をどけてごらんなさい」  ゆびさしたのは入り口の近くに置かれた大型の土器である。二人で使うには大きすぎると放って置いたままになっていた。  少女の胸ほどまであるが、中身は無い。動かすのは難しいことではなかった。  違和感に気づく。底が高い。本来地面に接するだろう底面は、容器の拳一つ分ほどの高くなり、下に空間があった。  中には砕けた仮面と、色鮮やかな生き物の絵。鋭い口を備え、腕には扁平な毛のようなものが生えている。 「なにこれ?」 「鳥よ」 「とり?」     
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加