二話 凄ノ男

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二話 凄ノ男

 地響きのような声だった。決して強くも大きくも無い。しかし全身を確かに震わせるどよめきだった。 「娘。此処は根の国だろう」  大男がもう一度尋ねる。それだけで頭がくらくらした。 「は、はい。そうで、ございましゅ」 「ならば此処は根の国の何処か」  質問の意味は分かったが、問うた意味が分からない。ここが根の国のどこらにあるのかなど、瑞穂にとって知る必要のないことだ。彼女の生活に必要な空間は、家と、米を貰う広場、あとはいくつかある商店に、気が向いたら寄る海。 「……あ、ええと、海。海があります。海の近くです。おっきな鯨が来ます」 「海か。鯨の種類は分かるか」 「え?ええと、お、大きくって、あと、め、目がないです」 「古い海だな。ハリマの海辺りか」 大男は得心がいった風に頷くと、影が伸びるが如く立ち上がった。 その体躯は、瑞穂の知るいかなる陸上動物よりも巨大であった。 手足と顔から人間と考えていたが、はたしてそれが正しいのか不安を覚える。海と陸を区切る水晶の壁を抜け、空のどこかで揺蕩っている米の渦を泳いで、ついには岩盤の上から大地に降りた大海(わだつみ)の住人というほうがしっくりくる。     
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