0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
二話 凄ノ男
地響きのような声だった。決して強くも大きくも無い。しかし全身を確かに震わせるどよめきだった。
「娘。此処は根の国だろう」
大男がもう一度尋ねる。それだけで頭がくらくらした。
「は、はい。そうで、ございましゅ」
「ならば此処は根の国の何処か」
質問の意味は分かったが、問うた意味が分からない。ここが根の国のどこらにあるのかなど、瑞穂にとって知る必要のないことだ。彼女の生活に必要な空間は、家と、米を貰う広場、あとはいくつかある商店に、気が向いたら寄る海。
「……あ、ええと、海。海があります。海の近くです。おっきな鯨が来ます」
「海か。鯨の種類は分かるか」
「え?ええと、お、大きくって、あと、め、目がないです」
「古い海だな。ハリマの海辺りか」
大男は得心がいった風に頷くと、影が伸びるが如く立ち上がった。
その体躯は、瑞穂の知るいかなる陸上動物よりも巨大であった。
手足と顔から人間と考えていたが、はたしてそれが正しいのか不安を覚える。海と陸を区切る水晶の壁を抜け、空のどこかで揺蕩っている米の渦を泳いで、ついには岩盤の上から大地に降りた大海の住人というほうがしっくりくる。
最初のコメントを投稿しよう!