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四肢もよくよく観察すると異様だ。腕を流れる筋の一本までが太い。拳骨を落とされれば自分の手足以外が無くなりそうだった。
「娘。礼を言う」
「は、ひゃい!?」
大男の肉体に圧倒されていた瑞穂は、突然の感謝に声を裏返す。何とか声を絞り出そうとするが、喉にまで鳥肌がたったのか、声帯が閉じない。
ふるふると震えるばかりの瑞穂を見下ろし、何を思ってか米の山の方に眼を向ける。
「米がいるのか」
「えっ」
無意識に手にある袋を見やった。米はもちろんいる。母親と自身の命綱なのだ。
とはいえそれを面と向かって言う度胸はない。さりとて黙っていることもできないので、震えるように頷く。
羽虫でもいたのか、大男は軽く手を振る。その中に、いつの間にやら瑞穂がまるごと入りそうな白い袋が。
「ふえ?」
妙な鳴き声を上げる瑞穂にかかずらうこよなく、大男は米を掬った。一月どころか一年食べてもお釣がきそうな量がごっそり削られる。
「行くぞ」
「え?えっと」
「お前では持てまい。家まで運んで行こう。案内してくれ」
殊勝な申し出であったが、瑞穂は尻込みした。何しろ初対面の上に少女の住むあばら家など踏み潰せそうな大男。
今のところ敵意はなさそうだが、その怪物的な力は視認できる距離にあるだけで恐怖を呼び起こす。しかし、逡巡する時間は予想外に短かった。
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