第一章

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 3月28日に発生した、多摩市に住む75歳男性の変死事件だ。  当初、病死か事故死との見方が大勢だったため、捜査本部は設置されず、 所轄の多摩署が捜査をしていた。しかし 司法解剖の結果、覚せい剤によるショック死との所見と胃の中から致死量をはるかに上回る大量の覚せい剤が出てきて 事態は一変した。  病死の線は消えた。  覚せい剤の過剰摂取による事故死...というのが普通の見立てだが、 死亡した男性が 多摩市では知らぬものはない というくらいの富豪であり、 いわゆる『地元の名士』であったこと、薬物関係も含めて、前科前歴がなく、警察にマークされたこともない人物であったことから、俄然(がぜん)、殺人説が浮上してきた。  『薬物≒毒物』という点で考えれば、自殺の線も捨てられないが、 覚せい剤で自殺 というのは 過去の事例からも極めて(まれ)であり、 ないと断定してもかまわないほどの確率である。  75歳という年齢、誰でも知っているというほどの資産家、薬物も含めて過去に警察にリストアップされたことのない人物、自殺の線も薄い となれば、殺人の可能性が濃厚である。  というわけで、急遽(きゅうきょ)、捜査本部が設置され、新年度に着任したばかりの沢泉が管理官として捜査の指揮をとることとなったのだ。
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