第五章

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 沢泉は尋ねた。 「なぜ ないんだ?」 「簡単にバレるからですよ。毒物死が疑われて解剖の結果多臓器不全となったら、まず最初にヒ素から疑いますからね。 あくまでも外見などから毒物死が疑われる場合ですよ。 多臓器不全がヒ素のせいであることなんて1パーセントもないんですから。 それにヒ素で死んでも多臓器不全が必ず出るわけでもないし。 そうは言ってもヒ素は殺鼠剤(さっそざい)にも入っているし、簡単に入手できる毒物の代表ですからね。  ただ、ヒ素なら大概外見に出るし、20世紀初頭ならともかく、現代ではすぐバレちゃいますよ。少なくとも病死に見せかける毒殺としてはクラシックすぎます。さっき話した夫殺しだって、心臓発作で救急車で運ばれてきた被害者を見た医者がすぐにヒ素を疑ったことからバレたんですから」 「なるほどなるほど、死後しばらく経っていても検出できるものなのかい?」 「骨になっちゃってれば難しいですけど、そうでなければ試薬で一発ですね」 「そうか、そうなんだ。じゃあこの犬も、一発だけやってみてくれないか。是非頼むよ」 「はあ、なんか乗せられちゃったような気もしますが、しょうがないなぁ」 「よろしく頼む」 こうして、科捜研が犬の死因を調べてくれることになった。
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