第一章

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 (なるほど)  沢泉は資料を読んで、合田理事官が随分と熱心に神宮路とのパイプ役をやらせようとしていたことが理解できたような気がした。  現場経験のないキャリア管理官の初仕事としては少し荷が重い と同時に神宮路の好みそうな事件だと考えたに違いない。 (妻の可能性が薄いんだな)  こういった怨恨(えんこん)の線が濃い殺人事件の場合、被害者が死んで得をする人物を最初に疑う。この場合は、莫大(ばくだい)な遺産を相続するであろう妻が 最も最初に疑われる存在である。  当然、所轄の多摩署でも妻から話は聞いているはずである。 その段階で容疑が濃厚となれば、所轄で捜査を進めて証拠を固め 妻を逮捕すればいいことである。  殺人事件だからと言って 必ず、捜査本部が設置されるわけではない。 所轄が速やかに解決すればそれに越したことはないのだ。  特に今回のように所轄が捜査をしていて、途中から捜査本部が設置され 本部から管理官以下人員が派遣されるというのは異例と言って良いだろう。  捜査本部を設置すれば、所轄は費用や人員を持ち出さなければならない。 それなのに 解決すれば本部の手柄になる。  できるだけ、捜査本部は設置したくないのが所轄の本音である。
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