第一章

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 妻の容疑が濃厚なら所轄が何らかのアクションを起こし、それで早期解決の線が見えていれば、本部設置は見送られただろう。  所轄の感触として妻の犯行の可能性が薄い、あるいは 証拠が全く出てこない、と言った「すんなり行く」事件ではなさそうだということなのだ。 「すんなり行かない」事件は神宮路の大好物だ。 (先生に聞けないとなると、確かに難しそうだな)  更に、合田の言った「難しい」には、別の意味もあると沢泉は考えた。  本部設置の場合は、できるだけ円滑(えんかつ)に捜査をすすめるため、 それなりの根回しをしてあることが多い。 「署長と管理官が同期で仲が良い(悪い)」などは代表的な事例だが、 人間関係には特に気を使った人員配置が求められる。 そこをうまくやりくりするのが理事官の腕である。 しかし、今回は 緊急で設置された本部なので、そういうやりくりはされていないであろう。  着任したばかりの、現場の人間から見れば『素人同然』の管理官をいきなり派遣せざるを得ない という事実が、理事官にも全くの予定外の事件であったことを如実(にょじつ)に物語っている。  合田は、『後方管理業務の達人』と言われており、マネジメントには定評がある。その合田にして「難しい」人員配置をせざるを得なかった、ということを暗に沢泉に伝えたかったのかもしれない。  組織の円滑な運営(特に本部と所轄の人間関係)に管理官である沢泉は、 捜査そのものより気を遣わなければならないかもしれない。 (やれやれ、最初から 重いな) 沢泉は、ふうと息を吐いた。  
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