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妻の容疑が濃厚なら所轄が何らかのアクションを起こし、それで早期解決の線が見えていれば、本部設置は見送られただろう。
所轄の感触として妻の犯行の可能性が薄い、あるいは 証拠が全く出てこない、と言った「すんなり行く」事件ではなさそうだということなのだ。
「すんなり行かない」事件は神宮路の大好物だ。
(先生に聞けないとなると、確かに難しそうだな)
更に、合田の言った「難しい」には、別の意味もあると沢泉は考えた。
本部設置の場合は、できるだけ円滑に捜査をすすめるため、
それなりの根回しをしてあることが多い。
「署長と管理官が同期で仲が良い(悪い)」などは代表的な事例だが、
人間関係には特に気を使った人員配置が求められる。
そこをうまくやりくりするのが理事官の腕である。
しかし、今回は 緊急で設置された本部なので、そういうやりくりはされていないであろう。
着任したばかりの、現場の人間から見れば『素人同然』の管理官をいきなり派遣せざるを得ない という事実が、理事官にも全くの予定外の事件であったことを如実に物語っている。
合田は、『後方管理業務の達人』と言われており、マネジメントには定評がある。その合田にして「難しい」人員配置をせざるを得なかった、ということを暗に沢泉に伝えたかったのかもしれない。
組織の円滑な運営(特に本部と所轄の人間関係)に管理官である沢泉は、
捜査そのものより気を遣わなければならないかもしれない。
(やれやれ、最初から 重いな)
沢泉は、ふうと息を吐いた。
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