第一章

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 車の中で、タブレット端末を出して 沢泉が資料を読もうとしていると、 「管理官、捜査本部で挨拶があると思いますので、考えておいてください」 と、柿崎が運転をしながら言った。 「挨拶?そんなことするのか?」 「はい、必ずというものでもないのでしょうが、慣例的に あると思います」 「何を言えばいいんだ?」 「私も捜査本部での管理官の挨拶を聞いたのは、1回しかありませんが...」 少し考えて、 「新任であること。事件解決に強い意欲があること。後は、みんなを鼓舞(こぶ)するような...俺についてこい!的な?」 「はあ?なんだそれは」 バックミラーを見ると、柿崎は自分で言っておいて、ちょっと呆れたような顔をしている。 「そんなものですよ」 「そういう挨拶は得意じゃない。なんとか自分で考える」 沢泉は、まるで「結婚式の挨拶を頼まれた友人」のようにブツブツ言い始めた。 「管理官」 「うん?」 「まさかとは思いますが」 「なんだ?」 「ただ今ご指名いただきましたので、って言っちゃダメですよ」 「え?...」 どうやら、ブツブツ言ってたのが聞こえていたらしい。 柿崎は耳がひどく良いようだ。
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