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第一章
4月2日朝、沢泉準警視は、理事官の合田の部屋にいた。
「沢泉君、管理官としての初仕事としてはちょっと難しいかもしれないが、君への期待も込めてのことと思ってがんばってくれたまえ」
「はい。精一杯がんばります」
直立不動の沢泉は、緊張気味に返事をした。
「ところで、君 城北の犯罪学部だったね?」
「はい」
最終学歴は東大大学院だが、大学は城北大学である。
「神宮路先生と楓先生には警察も何かとお世話になっている。まあ、警察の身内みたいなものだ。捜査情報がマスコミなどに漏れる心配もない。困ったことがあったら相談してもいいよ」
「はあ、それは難しいかと」
沢泉は正直に言った。
「なぜだね?」
「神宮路先生とは、ここのところ疎遠ですし」
神宮路は、「官憲嫌い」である。
それでも、警察から「なんとかお願いします」と頼まれれば、渋々 警察学校で講義をする くらいの協力はしている。
その教え子第一期生である沢泉は、東大の大学院を経て「官憲」それも「キャリア」となったのだ。
教授の怒りは想像できる。もう同窓会にも行けない、と沢泉は腹をくくっていた。
しかし、それは言えないので、ごまかした。
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