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雨の日の殺人鬼
そうやってどうすればいいかと考えてると彼女が来た。彼女はいつもと同じように僕におかえりなさい、と優しい声で言う。
「街で何を買って来たの?」
彼女の問いかけに卵を、と言いかける。
「卵、買って来たんだけど、はは、忘れたみたいだ、きっと死体のところに……」
きょとんとしている彼女に近づき、続ける。バレた、捕まる、と言う焦りが声に出て来る。
「シスター、懺悔するよ! 聞いてくれ!」
彼女に縋り付くような形で膝をついた。
「懺悔室は神父様が来ないと開けられないわ……」
驚き、戸惑っている彼女がそう言う。
「いいや、聞いて、僕は人を殺したんだ! 今までの殺人事件の犯人は僕なんだ! 神父だって僕が殺したんだ! 聞いてくれシスター! 町の人にバレた! 僕は捕まる! 嫌だ! 捕まりたくないんだよ、殺してくれ!」
怯えたような表情の彼女が力無く首を横に振る。ノー、だ。
「お願いだよシスター、僕を殺してくれ。捕まるくらいなら君の手で殺されたいんだ、君が好きなんだ」
「……いいえ、それはできないわ。貴方はちゃんと捕まって、罪相応の償いをすべきだわ」
捕まる、捕まる。僕が。僕を捕まえに連中がここへ来る!
「……じゃあ、君も殺すことにする。それから僕を捕まえに来た連中も殺して、すれ違った人間も殺す。例え捕まったって人を殺してやる。死刑になるまで人を殺す。死んだって呪って殺してやる。それもすべて、君が僕を止めなかったせいだ。君が自分の保身の為に罪を犯すことを拒否したからだ」
落ち着いて、と彼女が泣きそうな声で言う。こんなにも僕は落ち着いているのに。
「君が、シスター、僕は君のことが本当に、心から好きなんだよ……わかって……」
いつの間にか焦燥感はなくなっていた。代わりに心臓がぎりぎりと締め付けられて苦しい。こんなにも、僕は彼女が好きなのに少しも伝わらない痛みだ。
泣き始める僕に彼女はナイフを握りしめ、切っ先を向ける。腕を振り上げる彼女を見て嬉しくなる。
シスター!君が僕のところまでおちて来てくれるなんて、こんなに嬉しいことはもう一生ないだろうね!
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