雨の日の殺人鬼

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雨の日の殺人鬼

 夜、目が覚めた。  悪夢を見た。堪えきれないほどの悪夢だ。衣服が張り付くくらい汗をかいていた。トイレで吐いていると二人が起きてきた。 「どうしたの。具合が悪いの?」  ひんやりとしたシスターの手が額に触れる。心地よかった。優しい声、優しい眼差し。思わず涙があふれた。 「神父様、聞いてください…懺悔したいことがあるんです…」  言わずにはいられなかった。誰かに聞いてほしいと思っていたのかもしれない。子供のように泣きながら途切れ途切れに彼に話し始めた。 「何で間違えたんだ?」  答案用紙を見る父の声は低い。  父親は厳しい人だった。ことあるごとに躾だ、罰だと僕を殴り、罵り、踏みつけた。  母親は優しい人だったが、父から僕をかばってはくれなかった。父が間違ったことをしているとは微塵も思ってもいないようだった。 「うっかりしてたんだ……途中の式を」 「うっかりしてただと? 恥ずかしくないのか? 何故試験の時間に集中できない? 試験をやると決められた限られた短い時間ですら気が散るのか? 一度頭の病院でも行った方が良いんじゃないか?」  容赦ない父の言葉に喉が詰まる。声をあげたら泣き出してしまいそうだった。 「おい、質問に答えろ。私は何故間違えたか聞いているんだ。その問題のどこをどう解釈して間違えた?」  なるべくゆっくり息をして涙が出ないように数回、瞬きする。 「公式に当てはめる数字を、間違えたんです」 「何故そんなくだらない馬鹿げたことが出来るんだ。理解できるようになるまで何回でも解き直してこい」  はい、と頷く僕に答案用紙は返ってこない。解くには問題を見なくてはならないのに。黙っていても仕方ないと意を決して口を開いた。 「あの、父さん、問題を……」  刹那、父親の目は見開かれた。獣のような目だった。 「お前は自分が情けなく馬鹿でくだらない間違いをした問題すら覚えてないのか! 悔しくないのか?  向上心はないのか?  本当にまともな人間の神経してるのか?  思い出せ、一言一句間違わずに!  早くしろ!」  喉がからからに乾いていて必死に唾を飲み込むと涙が出た。 「お前はっ、私に恥をかかせたいのか?  出来の悪い馬鹿が家に居ると、私の息子だと、頭を下げさせたいのか?」     
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