雨の日の殺人鬼

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雨の日の殺人鬼

「良いんですか?」  躊躇いがちにそう尋ねた。彼はまた一口お酒を飲む。 「良いんです。飲むか?」  お酒を飲む神父……その姿に違和感を覚えつつもいただくことにした。 「こんなこと、口にするのははばかれるけれど、神様なんていないのかもしれないね。それでも、人の心の支えになるから、教会はあるし、私たちはいるし、神様もいるんだろうね」  彼はそんなことを、話していた。もしかしたら酔っていたのかもしれない。とにかく僕はそんな彼に好意を持っていた。邪な意味ではなく、純粋に人としてこの人が好きだと。 そうしみじみと感じていると急に彼は笑い出した。 「いや、なに、ずっと思っていたんだが君は顔が整っているな。さぞ異性から好かれてきたんだろうなぁと」  その言葉に思わず僕も笑ってしまった。あんまりにも神父らしくない世俗的な話題だったから。 「そんなことないですよ。僕は臆病者だから……いままで一人としか付き合ってきたことないですしね」 「へぇ……そんなものか」  急につまらなさそうにする彼に苦笑する。 「でも、なんでその子とは別れたんだ?」  再び楽しそうに神父様がそう言った。もう完全に酔っ払いだ。 「さぁ、どうだったかな……」  中身の入ったワイングラスを傾けながら数年前のことを思い出していた。  アルバイトが許される年齢になって、すぐに家を出た。 奨学金を借りて学校に通いながらバイトをした。母親から金銭的な援助もあり、そこそこやっていけた。優秀な成績を残して、たくさんの友人に恵まれた。学生生活は楽しかった。  ある日、告白された。親しい友人の1人で僕も気になっていた女性だった。明るく優しく、笑顔の素敵な人だった。  彼女は僕に、あなたはとても優しくて面白い、魅力的な人だと言ってくれた。嬉しかった。  この人がとても好きだった。けれど、彼女は本当に素敵な人で、多くの人に好かれていて、いつか僕なんか捨てられてしまうと思った。  そう思うといてもたってもいられなくて、彼女のことを殺してしまった。  証拠の隠滅を図ると、誰も僕を疑うことなく終わった。彼女を殺した日も雨の日だった。  今思い出しても僕のはじめてが、君でよかったと思ってる。
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