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雨の日の殺人鬼
そんな彼が僕に刃を向けられてどんな表情をするか気になったのだ。
雨が降った。彼は夕暮れ時に用事があるからからと教会を出た。
「雨が降っていますよ。傘をどうぞ」
「ははは、こんな子供みたいなの」
「覚えてないかもしれませんけど買ったのはあなたですよ」
あれぇ、と彼が首を傾げる。本当に覚えてないらしい。 彼は傘を受け取って教会を出た。雨足は強くなるばかりだ。朝が来ると目が覚めるように。お腹が空いたら食事をするように。雨が降ったら人を殺すことは僕にとっていつの間にか当たり前になっていた。レインコートを着る。ナイフを持つ。
シスターに街へ出てくると伝えて外にでた。
神父の遠ざかる背中を追いかける。傘を持ってる彼は一度振り返ったものの、僕をただの通行人として認識したらしく、そのまま再び歩き始めた。僕が走り出し、彼との距離も近付いてきた頃、流石に不審に思ったらしい。彼も走り出した。逃げる。走る。追いかける。追い付いた。
そのまま距離をつめて、彼の上に跨る。待ってくれ、と彼が声を上げる。どうしてこんなことを、という彼にナイフを向けた。
「……嘘だろ」
傘を放り投げた彼は目を見開いている
「今までのことも君が?」
地面に倒れこんだ彼の上に乗っかったままそんな話をした。
「やめてくれ。頼む。お願いだ」
彼から震えた情けない声が出てきた。
「命乞いですか? 身体なんて魂の入れ物でしょう? 最後の審判が来たら蘇るんでしょう?」
「違う。頼むから、これ以上罪を重ねないでくれ」
「僕の心配ですか? 死ぬのなんて怖くないって?」
「違うよ。私は怖い。誰よりも臆病だ。知ってるだろう。頼む……」
「……僕、やっぱりあなたのこと、好きだなぁ」
ナイフを振り上げると本当に本当に悲しそうな顔をした。
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