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雨の日の殺人鬼
胸をめがけてナイフを刺す、抜いて、また刺す。もう一度。何度か刺すと、彼は生き絶えた。もうこのレインコートは捨てなくてはならないほど汚れてしまった。
死体をずるずる引っ張って、小屋まで運んだ。相変わらず湿った木の匂いがする。今日は雨だから特に。
「良かったね、これであなたは何者でもないよ」
彼の琥珀色の瞳はもう何も映していなかった。血で汚れたレインコートを捨てて、落ちていた子供染みた傘を拾い、街で牛乳と卵を買った。教会へ帰るとシスターが困ったように笑っていた。
「卵ならまだあるのに」
「雨だとつい買っちゃうんだ」
「ふふ、また美味しいの作ってね」
「もちろん」
まだ雨は止まない。静かな教会の中に雨音だけが響いていた。
土砂降りの日だった。
「いやっ! やめて、助けて! 死にたくない!」
彼女は恋人を亡くして悲しみにくれていた女性だ。
後を追いたいとまで言ってた彼女の命乞いは滑稽にも思えた。
背中を切りつけて倒れた。首を締めて殺した。
泥だらけになりながら終わったと一息付いてると物音がした。振り返ると人がいた。
見られた。
人を殺しているところを。
追いかけて殺そうか、と思ったがその人物は街中へと逃げた。追えない。目撃者を増やしてしまう。いや、バレてない。僕だとバレたわけじゃない!いや、バレてる!思考回路がぐちゃぐちゃだった。どうすればいいかわからないまま教会へと帰った。焦燥感が募る。どこまで見られたんだろう。顔は見られてないはずだ。ああ、それでも新参者で素性不明の僕が疑われるに決まってる。血まみれのレインコートを脱ぎ捨てて椅子に座る。
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