雨の日の殺人鬼

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雨の日の殺人鬼

 雨の日、人を殺した。  血まみれのナイフを懐に隠して死体を残したままその場を去る。行くあてはなかったが、何となく森の近くの教会へと入った。こじんまりとして古びた教会だが綺麗に手入れされている。静まりかえった中で雨の音だけが妙に響いていた。そのまま教会の中を進み、礼拝堂へと辿り着くと椅子に座った。僕が通ってきた道は泥と雨で汚れている。一息ついていると不意に物音がした。 「誰かいるんですか?」  振り向くと黒い修道服をきたシスターがいた。雨で血は流れたとはいえ汚れたレインコートと濡れた頭の僕を見て、彼女は少し驚いた様子だった。何があったかと聞かれ、思わずわからないと答えた。何が起きたかよくわからない、思い出せない、記憶がない、と繰り返す僕に彼女はそれ以上聞かず、暖かい紅茶を淹れてくれた。それを飲みながら他愛ない会話をしてるうちに夜は明けた。  朝になると、神父が起きてきて、行くあてがなくて困ってるという話をするとしばらく教会に置いてくれるとのことだった。  シスターは明るく親切で、美しい人だった。手が空くと編み物や縫い物なんかをしていた。彼女いわく、趣味らしいが、できたものは全て人に渡しているそうだ。欲のない、笑顔の可愛らしい人だった。神に仕えるのに相応しい人だと思う。  神父もなかなかに、悪い意味ではなく、人間味のある人で好感を持てた。そもそも神父なんて、狂信的な輩か、権力を振りかざす欲にまみれた奴だと思っていたのだが、この人はそうではなかった。教会に訪れる人の懺悔や相談なんかを冷静に受け止めて答える。その人間らしさが好きだった。
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