プロローグ:事件

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 腹の辺りがさわさわする。  部屋がぎしっときしむ。その音にびくりと体が震え、汗が一滴、額からするすると滴り、眉に当たって右頬を伝っていくのを感じる。  もうやめよう。見るのをやめよう。PCの電源を落とそう。  そう思っているのに、体はぴくりとも動かない。ただただ、スマホを左手に持ち、右手でマウスを掴んだまま画面を食い入るように見つめ続ける。  どこか遠くで雄介の声が聞こえる。だが、それはもう形を成さない雑音で、耕哉の頭の中に渦巻くのは、カメラマンの荒い息、靴が土を蹴る音、木が擦れ合う音に風が唸る音。  そして、背後から迫る何かが出す音。  大きくて、重くて、そしてやや半熟の音。  ぼちゅっ、ぼちゅっ、と段々と大きく早くなってくる足音。  ぼちゅっ。  耕哉は振り返ると、椅子の上で悲鳴を上げた。  彼のすぐ後ろ、部屋の真ん中に何かが居た。  真っ黒で、渦巻いて、半熟だった。  大きな悲鳴と物が倒れる音が響いた。  夕食の準備をしていた耕哉の母、浅村和代(かずよ)は肩を震わすと、天井を見上げ耳を澄ました。     
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