プロローグ:事件

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 しかし、今日の『霊処探訪』はいつもと違った。まず開始時間が午後五時と予告されていたが、始まったのは二時間後。更にいつもならば「皆様今晩は」としなを作って厚化粧をした御霊桃子の挨拶から始まるのにそれもない。いきなり山道。しかもいつものスタッフが抱えたカメラでのライブ動画ではなく、どうやらヘッドセット型のカメラで録画した映像らしい。時折、カメラが振り返ると夕焼けに赤く染まった山肌が写る。自己紹介もなく、一体誰が撮っているのかすら不明な映像が五分続いた。  ぼうっと画面に見入っていた耕哉はやがて飽きて、いつも通り雄介と通話をし始める。今回はハズレだな、いや何か意味があるのかもしれない、といつも通りの会話をしつつチャットを覗くと、時折映る風景の特徴から場所が特定されつつあった。  その時、ちらりと何かが見えた気がした。  黒い、真っ黒い何か。  耕哉はモニターに顔を近づけた。  開発の所為か、それとも何かしらの農薬でも散布したのか、まるで冬の山道を走っているかのごとく緑が無い。だが、振り返った時に映る向かいの山は青々としていた。  と、撮影者が短い声を上げ、映像が揺れた。おっという雄介の声がスマホの向こうから聞こえた。 「転んだぞ。今日は桃子さん一人か。大変だな」 「確かに今の声は女の人だったな。でも、ホントにこれ桃子さんが一人でやってんのかね?あの人、箸も持ったことがないってキャラで売ってね?」 「ま、炎上騒ぎの後だしな、これくらいやんねーと年末のイベント失敗しちゃうだろうしな。で、お前行くの? なんだっけ、世界終焉のミサだっけか。えーと、六千五百円?」 「いや、まあ……本物が見れるって話だし、ちょっと考えてるけど」     
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