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翌朝、リーダーとして後輩に指示を出す島崎を見た。すれ違いざまに挨拶を交わしたが、忙しいのだろう、急ぎ足で車に向かった。
「リーダーかぁ......」
足取りも重く制作部のドアを開けて、中に入る。
「咲間さんおはようございます!」
「おう、おはよう」
十五年も居れば後輩の数も増えるというものだ、会社では弱い自分は見せられない。毅然とした態度を振る舞う。数人の後輩達は早めに出勤して作業を進めていた。俺もデスクに向かいパソコンを立ち上げる。数分もすれば全員が揃い、静かなオフィスに電話の音と、キーボードを叩く音だけが響くようになる。
「やってるかー?」
突然肩に重みを感じ、振り向くと部長が俺の肩に手を置いていた。
「あっ、ハハハッ、部長おはようございます」
年功序列は無くしたとはいえ、やはりその名残を残す我が社の部長は、自分が仕事のできる上司と勘違いしている。こうして管理しているように見せかけて、今日も俺の仕事の手を止めにやってくるのだ。
「そこ、あと二ミリズラした方がいいぞ」
「あ、はい......」
マウスを操作して修正する、二ミリなど動かしたところで何が変わるというのか?
「それくらい気づけよ、一課の大黒柱さん、お前がこの課の最年長、つまりリーダーみたいなものなんだから」
リーダーだと言うのならば確かめておかなければならない、美咲の引きつった顔が思い浮かぶ。俺は開けにくい口を無理矢理開いた。
「部長、僕はリーダーなのでしょうか?」
「ん? そりゃ一番年上なんだから、リーダーだろ?」
「そ、そうですよね、ありがとうございます」
イエスマンに成り下がった俺にそれ以上は言い出せない、実質的にリーダーだろうが、形になっていなければ誰にも認めてもらえない。
「ハハハ、頼むぞ」
こんな自分が嫌いだ――――
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