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性格屋
「陽くんももう長いんだから、リーダーくらいにはさせてもらえないの?」
「あぁ、また言ってみるよ」
初めて妻の美咲に言われたのは半年前のことだった。
広告代理店の制作部に就職して十五年が経つ、同期の島崎が営業部のリーダーとして辞令を受けたのを島崎の妻、琴美さんから聞いた美咲は、焦りからか、それまで口を出さなかった仕事のことを言うようになった。
島崎とは家が近いということもあって家族ぐるみでの付き合いがあり、休みの日にはバーベキューなどをよくやる仲だった――
「島崎さん所、二人目出来たらしいよ」
「あぁ、あいつから聞いた」
暗いトーンで話す美咲から、うちにはまだ一人も子供がいないということの嫌味にも聞こえた。
「私、今年で無理ならもういらない」
「なんで?」
「高齢出産になるから、もういいよ、諦める」
「そっか......」
「......何それ、頑張ろうとかないの?」
「ん? うん、だな、頑張ろう......」
暗い食卓が毎日の疲れを癒してくれるわけがなかった。テレビの音が、話題を変える唯一の救いだった。
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