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先日、わたし北澤陽子は42歳の誕生日を迎えた。
主人は毎年決まったように花を買って来てくれる。
わたしが好きな赤で統一された豪華な花束。
今年も高校生の息子と3人でフレンチレストランでディナー、という型にはまったような誕生日だった。
家庭に大きな不満はない。
主人の年収も申し分なく、息子の教育にも熱心に関わってくれた。
一つ不満を言うならば、理系大学を出て健康食品メーカーの研究職に就いたキャリアを捨てて、主人の意向で専業主婦になり、社会との関りがなくなり、毎日が単調で刺激がないというところ。
お花を習ったり、お茶会したり、ゴルフに行ったり、周りからは羨ましがられる贅沢な時間を主人に与えてもらっているのに、カゴの中の小鳥というか、昆虫標本というか、<わたし>という存在は家庭の中で埋もれて年を重ねていくのかしら……と考えると虚しさが湧いてくる。
そんな退屈な日常に、小石が投げられて波紋が広がっていったのは、大学時代の友人の真奈美からの約2年ぶりのメールだった。
『メチャ久しぶり~。陽子は同窓会行くの?』
真奈美は卒業後も定期的に会っていた数少ない友人なので、連絡が来たのは素直にうれしかった。でも、真奈美が離婚を決めた時、何か力になれないかとかけた言葉を真奈美は『哀れみ』と捉えてしまって、喧嘩別れしたみたいになってしまっだのだ。
それ以来、お互いに連絡を取るのを避けていた。
バツイチで中学生の娘を一人で育てて苦労している……
離れていてもそれだけはわかっていて、
会って何を話せばいいんだろう……って気まずさを感じた。
わたしの生活は特にかわりばえしない。
それに、わたしの抱えている不満を打ち明けることはできない。
わたしの不満なんて贅沢な悩みだ。
とても話せない。
わたしが何を話しても真奈美を傷つけないだろうか、余計な心配をしてしまう。
同窓会にはもちろん行くつもりだった。
退屈な日常から離れられる貴重な機会だから、案内状が届いた日からずっと胸が躍っていたのだ。
でも、真奈美との再会は複雑な思いに駆られる。
『ホント久しぶりだね。元気だった?行くつもりでいるよ。20年ぶりにみんなに会えるの楽しみだね』
と、何も近況を聞かずに無難な返事をしたら
『前田君と会えるかも(笑)』
と入った。
前田君とは前田 勇くん。大学時代付き合っていた彼のこと。
心の奥にしまっていた思い出が蘇ってきた。
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