電話の声

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『ユリ。・・・ありがとう。今度ご両親に挨拶に行くから、都合を訊いておいて?』 「・・・・・はい。」 『しかし・・・。』 「・・・・・?」 『やっぱ、電話はイヤだな。』 「どうして?」 『離れている距離がもどかしいね。』 「・・・・・。」 『声を聞くと今すぐ会いたくなるよ・・・。』 「はい・・・・・私も。」 私たちは、あまり電話で話さない。 お互い、電話をかけるタイミングが相手の邪魔になったらいけない、という古くさい考えを持っていたのも事実。 1日に1回か2回、「今日は2課の先輩とラーメンを食って帰った」とか「店内をまわっていたら、時計売場で氷室さんを見かけましたよ」とか、短いメールを交換するのみで終わる。 毎朝の電車で少しだけ会って、後はメールだけなんて恋人同士は珍しいと自覚しているけれど、それで構わなかった。 彼の言う通り、電話をしてその甘い声を聞くと、どうしても会いたくなる。 そして彼に触れたくなる・・・ 触れられたくなる・・・ 『ユリ・・・俺はね。』 「・・・・・?」 『・・・ユリが思っているよりもずっと、おまえのことが好きなんだよ。』 「・・・・・・ずるい。」 『ん?』 「電話で言うなんて。」 『そうだな。ごめん・・・おやすみ。』 「おやすみなさい・・・。」 切れた電話へ向かって、私は呟く。 「氷室さん・・・大好きよ・・・。」
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