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「ユリ、なにか手伝うよ。」
食後に食器を洗っていたら、氷室さんが私の隣へやって来た。
「あ、そうですか?じゃあ、洗った食器を拭いてください。」
「リョーカイ。」
彼は布巾を持ち、ぎこちない手つきで食器を拭いて棚へ戻していく。
きっと普段はこんなことなどやったことなくて、しかし少しでも私を助けようと思う心があるのだろう。
お皿一枚拭くのにもギュッギュッと音をさせ、一生懸命の彼を隣で見ていて、嬉しくなった。
「氷室さんは、良い旦那様になりますね。」
「ん?こんなのやっただけで、そんな褒めてくれるのかよ。」
「ふふ。だって、元々優しいし・・頼りになるし、私を大事にしてくれるし・・・。」
「ヤメロ、照れる。」
「浮気は・・・しそうにないかなぁ・・・。」
「あ、それはねぇな。」
「でも・・・今はそうだとしても、いつか私に飽きて他の女の人がよくなるかも知れませんよ?」
「ないない。ユリ以外に興味ない。」
「・・・・・。」
「こら、心配すんな。俺はユリだけ。」
氷室さんは全ての食器を片付けると布巾をおいて、今度はタオルを持ち私の濡れた手を拭く。
そのまま両手を握って正面に立った彼の目は、真っ直ぐに私をとらえた。
「ユリとしか、こんなことしたくない。」
そう言って、私の首の後ろへ指を差し込んで引き寄せ、キスをした。
瞼を閉じる直前の目にうつった彼の焦げ茶色の瞳は、男性なのに色気さえ感じられて、毒針を射たれたように私の体は動けなくなる。
「・・・・・はぁ・・・・・んっ。」
「ん・・・・・・ユリ・・・・」
「・・・ごめんな・・さい・・」
「・・・・・・・え?」
「氷室さん、ごめんなさい。私・・・・」
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