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母は笑いながら立ち上がると、冷蔵庫から私の好きなルビーのグレープフルーツを取り出し、食べやすいように切ってテーブルに出してくれる。
「ねぇ、お母さん。」
「んー、なあに?」
「私の結婚式で、お父さんは泣いちゃうかなぁ?」
「さぁ、どうだろうねぇ。滅多に泣かない人だからねぇ。」
「そっか。」
「あ、そういえばね・・・」
母はグレープフルーツを頬張る私に顔を寄せて、話し始めた。
「一度、ユリちゃんがお父さんを泣かせたことがあるんだよ。」
「えっ!そんな、泣かせたことなんてないよ。」
「あはは、これ言ったらお父さんに怒られるかなぁ?」
「・・・なに?」
「まだユリちゃんが小学生だった時、お母さんは体が悪くて入院ばっかりしてたでしょう?」
「・・・・うん。」
そう、母はあの頃長い間、病魔と闘っていた。
検査、入院、手術を繰り返して、やっと今を手に入れた母。
当時は詳しい話を聞かされぬまま、母のいないこの家で、仕事と看病で疲れた父の帰りを、泣きながら待っている日々だった。
子供ながら、不安で泣いても父にそれを悟られまいと、必死に笑顔でいたっけ・・・
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