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「あの・・・こんにちは。」
「・・・・・。」
私の声に彼女は、聞こえていないように反応せず、ただ私を睨む。
あの時、「氷室さんに彼女がいないなら、私が立候補したい」とまで言っていたのに、それを黙って聞いていた私が、実は氷室さんの恋人だったなんて知ったら、いい気持ちはしないだろうと思っていた。
どうしよう・・・・
怒った顔をしてる・・・
「ユリ、どれが好み?」
「あ、はい・・・・・ええっ。」
氷室さんの右腕が、私の肩を掴んでグッと引き寄せられる。彼の顔がすぐ横まで近づき、もう頬と頬がつくほどの距離になる。
慌てて離れようとすると、よけいに彼の腕に力が入って逃れられない。
「婚約指輪はプラチナに金のアクセントだったから、結婚指輪もそうするか?」
「あ、あの・・・。」
「それともユリは、シンプルなこういうのがいい?」
「洋一さん、ちょっと近・・・。」
「・・・いいから、普通にしてろ。」
「え・・・。」
私たちの様子を見ていた彼女は、小声で「信じられない」と言って事務室の中に入っていった。
その事務室のドアを、横目でチラッと見た氷室さんが呟いた。
「あぁ。・・・マジで腹立つ女。」
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