世界に一人だけのひと

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私が勤務しているデパートの正月は、2日からやってくる。 大晦日まで営業した店は、年越しとともにディスプレイを全て変えて新年を祝う。 特に年頭の2日間は、営業開始時刻に正面入り口でお客様の出迎えがあり、店長をはじめとする役付け者と、振り袖を着た女性社員がその任につく。 着物は自前で一日中帯に締め付けられ、苦しい思いをするのだが華々しい仕事でもあり、特別手当が支給されるため人気のある仕事だった。 今年は人事部から私が担当することになり、着物で出勤することになっていた。 「おはようございます、氷室さん。」 通勤電車の先頭車両。 今日はいつもより30分早い電車で、同じ会社の外商部に所属している彼と待ち合わせだった。 氷室さんは電車のドアが開く前から私の姿を見つけ、驚いて目を丸くしている。 「・・・・・・すっげぇ。」 「どうですか?美容院で着付けて、髪もアップにしてもらいました。」 成人式に買ってもらった着物は、紺色に金糸の刺繍で蝶が舞う、落ち着いているけれど上品な柄で気に入っていた。 「ユリ・・・・・」 「はい。」 「・・・・・・・すげぇ綺麗。」 「着物が?」 「・・・・・・こら。」 「ふふっ、ありがとうございます。」
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