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東北で育った彼は、大学進学のために上京した。
ご両親から仕送りをしてもらいつつ、その負担を減らすために奨学金制度を利用し、自分でもアルバイトをしていた。地方からの進学は、大変なのだと思う。
私にも、親を敬う気持ちや感謝もあるが、彼の場合は尚更だろう。
そのご両親へ私を紹介する前に、結婚の話を進めてしまうわけにはいかないという、いかにも真面目な彼らしい言葉に胸が震えた。
「氷室くん・・・・」
父は俯いて少し考えていたが、口を開いた。
「はい。」
「よく、わかりました。」
「・・・・・。」
「そうだね、まず君のご両親にユリを会わせてもらおう。
大切なご両親を蚊帳のそとに置いて、こちらだけで勝手に結婚という大事なことを決めるのはおかしい。
その通りだ。そうしましょう。」
「あ・・・ありがとうございます。」
「氷室くん・・・オレは早く君を『息子』と呼びたくなったよ。」
「・・・・・。」
「君といれば、ユリは必ず幸せになるな。」
「・・・お父さん・・・。」
「今日は、家へきてくれてありがとう。一緒にゆっくり飯でも食おう。」
「はい、ありがとうございます。」
母は黙って、泣いていた。
父は何度も頷いて、それは嬉しそうだった。
そんな両親を見て、私も泣けてきた。
背筋をピンとたてて、凛々しく清々しい彼の横で、私は不思議と親孝行をしている気分になった。
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