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「お邪魔しました。」
氷室さんが帰る時、せっかくの休みなんだから、二人でどこか出掛けてきなさいと母が言ってくれた。二人で並び、両親と向かい合っていた。
「これからは、遠慮なくいつでも来なさい。」
「そうよ、待ってるからね。」
両親は玄関の外まで見送りに出てくれた。
「ありがとうございます。お嬢さんを少しおかりします。」
「じゃ、お父さんお母さん、行ってきます。」
氷室さんは深々と一度頭を下げて、私の一歩先を歩き出した。
両親は見えなくなるまで、笑って手を振っている。彼は時々振り返り、何度も会釈して、はにかんだ笑顔で最後は小さく手を振り返した。それを見ていた母が、とび跳ねて喜んだのが遠目にわかった。
公園の駐車場にとめておいた、氷室さんの車へ乗る。運転席に腰をおろした彼は、深呼吸をした。
「はあぁ。緊張したーっ!!」
その声に肩がビクッとなるほど、驚く私。
「えっ?あれで緊張していたんですか?」
「ん。」
「緊張しているようには、見えませんでしたけど。」
「・・・そりゃあ、緊張するよ。」
「・・・・・・。」
「惚れた女の親に、挨拶に行くんだぞ?気に入って貰えなかったら、アウトでしょ。」
「・・・・・・。」
「はあ、ホッとした。理解してもらえて。」
「そうですね。」
「・・・良いご両親だったな。さすが、ユリを育ててくれた人達だ。」
「・・・・・。」
「緊張したけど、会えて良かった。」
「・・・はい。」
「ユリ・・・・・ありがとう。」
彼がなぜこの時「ありがとう」と言ったのか
何となく、わかるような気がした。
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