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部屋に入って、私は言われた通りコーヒーを湧かす。
氷室さんはスーツからセーターとジーンズに着替えて、新聞を読み始めた。
薄手のVネックセーターから覗く鎖骨と華奢な首のラインに、何気に目がいく。
彼は全くアクセサリーを着けないので、その稜線が余計にはっきりとわかり、色っぽくてドキッとした。
「コーヒーどうぞ。」
「ん、サンキュ。」
時々中指を使ってメガネをあげる仕草。
カップを持つ、手。
コーヒーの湯気越しに見える、長いまつ毛。
目が離せない。
今日彼は、私の両親に会ってくれた。
内心、定番の「お嬢さんを僕にください」というようなシチュエーションを期待していた自分がいて、氷室さんの言葉には正直驚いたけれど、真面目な彼らしい申し出にとても感動した。
車の中で運転する姿や、ただ新聞を読みふける彼に、どうしてこうも胸が締め付けられ目が離せないのか。
これが俗に言う『惚れ直した』という現象かも知れないと気付いて急に恥ずかしくなり、コーヒーのカップで慌てて顔を隠した。
あぁ本当に私・・・
この人が好きでしょうがないんだ・・・
胸がぎゅーっと、苦しくなった。
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